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Adobe が 16.8 億ドルで Magento を買収した件に関する考察

Adobe buying Magento for $1.68 billion

Adobe 社は昨日、Magento 社を 16.8 億ドル(約 1,840 億円。以下、換算値は「約」を省略)で買収することに合意したと発表した。今朝起きてから、この買収に関して僕がどう思うかと尋ねるメッセージを送ってきた人が 14 名いた。

Adobe が Magento を買収したのはべつに驚くようなことではない。業界では「公然の秘密」だが、Adobe は最初、Hybris を買収しようとして、取引交渉で SAP に敗れた。続いて DemandWare を買おうとしたが、Salesforce に敗れた。だから、Adobe がもう長いこと、コマース プラットフォームを買収したがっていたのは明らかだ。

買収の背後にあるプロダクト モチベーション

Salesforce、Oracle、SAP、Adobe といった大きなプラットフォーム企業は、デジタル カスタマー体験市場をいちばん上から下まで所有しようとしている。すなわち、コンテンツと体験の管理などに加えて、マーケティング、コマース、パーソナライゼーション、データ管理といったもののサポートも入ってくる。

Adobe は他のプラットフォーム企業と比べるとコマースが抜けていた。Magento を手に入れたことで、Salesforce、Oracle、SAP に対する競争力が改善された。

Salesforce、SAP、Oracle は優れたコマース機能を提供しているものの、コンテンツと体験に関しては満足できるような管理機能がない。(だから)僕は、Adobe がコマースのギャップを埋めたことによって、Salesforce、SAP、Oracle はそれぞれのコンテンツおよび体験に関する管理機能のギャップに対して、より攻撃的(アグレッシブ)な動きを見せてくるのではないかと予期している。

Magento 社は当初から中小企業および中規模市場で成長してきたが、最近、エンタープライズへと進出し始めた。Adobe はそこに業務展開の成熟度を加えることになるだろう。すなわち、大企業への売り込み方や大企業レベルのサポート提供方法といったことだ。Magento はそうした専門的経験の恩恵を受ける立場になる。

買収の背後にある潜在的な財務結果

Adobe 社のプレス発表によると、Magento は「約 1.5 億ドル(164 億円)の年間売上」を達成していたという。Magento 社が 2017 年の初期に Hillhouse Capitol から 2.5 億ドル(274 億円)の資金を調達したこともわかっている。仮にそのうちの 1.8 億ドル(197 億円)が、まだ銀行にあるとしよう。大ざっぱに計算して、16.8 億ドル(1,840 億円)から、その 1.8 億ドル(197 億円)を差し引いて、Magento には大体 15 億ドル(1,640 億円)の値段が付いたと判断できる。あるいは、直近の Magento 売上 12 か月分を 10 倍した数字と考えてもいい。これは今日、主にライセンシングのビジネスである Magento にとって、信じられないほどの倍率だ。

この数字を、評価額 150 億ドル(1 兆 6400 億円)で取引され、直近 12 か月の売上高 7.6 億ドル(832 億円)の Shopify と比べてみよう。この評価額は 20 倍に相当するが、Shopify は、この高い評価に値する。というのも、そのビジネス自体がもっといいからだ。同社の事業はすべてクラウド上で提供され、売上高は前年比 65% で増えている。Magento よりもずっと速く成長しているのだ。

その話は置いておくとして、Magento がライセンシング ビジネスからクラウド ビジネスへと転換するのを加速させることができるのなら、Adobe は素晴らしい買い物をしたことになる、という主張も成り立つだろう。

ほとんどの組織は「ベスト・オブ・ブリード」を求める

今回の買収の背後にあるプロダクトと財務、両面のモチベーションはどちらも納得のいくものであるかのように見える。しかし、組織(企業)は統合された(一体型の)アプローチを求めているのだ、と言い切れる確信は僕にはない。

グローバルなブランド企業は、商業ベンダーが規定した製品セットや製品ロードマップに限定されてしまうよりは、自分たちの好きなテクノロジーと容易に統合できるオープンなプラットフォームを探す方を望んでいる。組織は、自ら選んだコマース プラットフォームと自ら選んだ体験管理ソリューションに統合できる、コンテンツの豊かなショッピング ジャーニーを作りたいものなのだ。

これは Acquia において僕たちが直接、体験していることだ。そうした統合の対象には、IBM WebSphere Commerce、Salesforce Commerce Cloud/Demandware、Oracle/ATG、SAP/hybris、Magento から自前の商取引プラットフォームまでも含めた多様なコマース プラットフォームが含まれる。Drupal と Acquia がさまざまなコマース プラットフォームを利用している好例として、以下のサイトをチェックされたし:Quicken(Magento)、Weber(Demandware)、Motorola(Broadleaf Commerce)、Tesla(車の注文にはカスタムのプラットフォーム、アクセサリーの注文には Shopify)。あと、当然のことだが、Drupal のネイティブなコマース ソリューションである Drupal Commerce を利用したプロジェクトもかなりある。

Magento を手に入れたことは Adobe にとって不利になる。というのも、数々のコマース ベンダーは、前に進んでいく(Magento との統合または連携を進めていく)Adobe Experience Manager と統合させようとは思わなくなるだろうからだ。

要は統合を通じた革新

今日、マーケティング テクノロジーの業界では信じられないほど大量の革新が起こっている業界マップ:フルサイズ画像はこちら。そして、これらのカテゴリーすべてをカバーする形でいちばん競争力のある製品セットをそろえるということは単独のベンダーには不可能だ。束縛されることのない、この革新についていく唯一の方法は統合を通じた対応だ。

Marketing Technology Landscape 2018
2018 年版マーケティング テクノロジー業界マップ(Marketing Technology Landscape 2018)。参考までに、過去の業界マップは以下のとおり:2011 年2012 年2014 年2015 年2016 年2017 年。マーケティング テクノロジー業界がどれだけ速く成長しているのかよくわかる。

ほとんどの顧客は、オープンに革新を採り入れて制限なしに統合できる、オープンなプラットフォームを求める。Drupal と Acquia が成功し続けているのも、Drupal の Web サービス機能への取り組みが重要なのも、Acquia が商取引に関して「ベスト・オブ・ブリード」戦略をとり続けるのも、すべてそこに理由があるのだ。それはまた、Acquia がマーケティング統合プラットフォームとしての Acquia Journey に強い確信を抱いている理由でもある。すべては統合による革新であり、その統合をやりやすくすることであり、好きなテクノロジーを採り入れるための「摩擦」を取り除くことだ。

コマース プラットフォームを手に入れるのならヘッドレスを

もし僕が Adobe だったら、Elastic PathCommerce ToolsMoltinReaction Commerce、あるいは Salsify でもいいので、ヘッドレスのコマース プラットフォームに目を向けただろう。

今日、Magento と Adobe Experience Manager には重複する機能がたくさんある。コンテンツの編集機能、コンテンツのワークフロー、ページの作り方、ユーザー管理、SEO、テーマの扱い方などだ。2 つのソリューション(製品)間で機能が競合していると「開発者体験」も「小売業者体験」も低下することになる。

ヘッドレスのアプローチでは、フロントエンドとバックエンドを分けるので、(ユーザー)体験またはプレゼンテーションのレイヤーとコマースの業務レイヤーとは切り離される。だから、このアプローチなら、重複する機能がずっと減って、開発者、小売業者いずれにとっても体験が向上することになる。

それとは別に、Drupal Commerce のように深い部分まで統合するアプローチもあるだろう。そうすれば、コマース、コンテンツ管理、体験作成といった機能の間で重複する部分はなくなる。

オープンソースにとって吉と出るか凶と出るか

Adobe が Magento のオープンソース コミュニティーをどう迎え入れるかは、おそらく今回の買収でいちばん興味をそそられる部分だろう。少なくとも僕にとってはそうだ。

もう長い間、Magento は名目上、オープンソースとして活動してきたが、実践上はそれほど「オープンソース」ではなかった。ここ数年にわたって、Magento チームはオープンソース コミュニティーを再び盛り上げようと頑張ってきた。僕がそれを知っているのは、このテーマに関するカンファレンスのひとつに参加して基調講演をしたことがあるからだ。Magento のリーダーシップをとるチームとの議論にも、たっぷりと時間を割いた。他のプロジェクトと同じく、Magento も Drupal から着想や刺激を受けてきている

たとえば、Magento 社は Magento 2 をリリースして初めて GitHub に移行することができた。その移行によって、コミュニティーはコードや他の重要な用件に関して、よりうまく共同作業ができるようになった。Magento の最新バージョンではコミュニティーからの貢献が 194 件あったとされている。それは大きな進歩だが、Drupal と比べれば規模は小さい

僕は、Magento が Adobe 社に入っても、こうしたオープンソースの取り組みが継続されることを望んでいる。継続されるのなら、オープンソースにとっては巨大な利益となるだろう。

逆に、Adobe が Magento をクラウド専用にし、料金体系を大幅に変え、Adobe の競合製品との統合を制限したり、オープンソースの理念に価値を認めなかったりするようなことがあれば、Magento コミュニティーは、すぐにそっぽを向くことになるだろう。その場合、Adobe は Magento のインストール ベースと Magento ブランドを買ったのであって、オープンソースというモデルを信じているから買ったというわけではないことになる。

今回の買収は PHP にとっても大きな成功を意味している。Adobe は今や、16.8 億ドル(1,840 億円)の PHP プロジェクトを所有しているわけだ。これは、PHP がエンタープライズ クラスのテクノロジーであると実証していることになる。

あいにく、Adobe は従来から「オープンソース優先」ではなく「オープンソースは二の次」でやってきた。2010 年 7 月、同社は Day Software 社を買収した。Day Software のテクノロジーは大部分、オープンソースのフレームワークを使って作られていた。それは Apache Sling、Apache Jackrabbit をはじめとするものだが、開発者やアジャイル マーケターには、オープンでベスト・オブ・ブリードのソリューションと位置づけられていた。しかし、年月がたつうちに、その大部分が覆い隠され、埋もれてしまった。また、Adobe 社における開発者たちとの開発記録も(好意的な言い方を選んでも)「入り交じった」状態だ。

同じことが Magento にも起こるのだろうか?それは時間がたてば、わかるだろう。