オープンソース・ソフト Drupal を使った Web サイトの構築・サポート・研修

ディストリビューションは Drupal にとって増大する機会であり続ける

昨日、Nasdaq の IR サイト用 Drupal ディストリビューションに関する記事を公開したあとで気づいたのだが、このブログでは「Drupal ディストリビューション」について十分に話していない。誰でも Drupal を利用して自分のディストリビューションを作り上げることができるという機能は、単にパワフルなモデルだというだけではなく、わりと Drupal 独特なものだ。僕が知っているかぎり、Drupal は今でもまだ、ディストリビューションを作ってシェアすることを自らのコミュニティーに対して積極的に奨励している唯一のコンテンツ マネージメント システムだ。

Drupal ディストリビューションとは、Drupal コアといっしょに貢献モジュールとカスタム モジュールのセットをパッケージ化したものだ。それによって、特定の活用事例あるいは業界に対して Drupal を最適化することができる。たとえば、Open Social はプライベートなソーシャル ネットワークを作るためのフリー Drupal ディストリビューションだ。Open Social はオランダのデジタル エージェンシー GoalGorilla によって開発された。国連は現在、自組織のソーシャル プラットフォームの多数を Open Social に移しているところだ。

もう1つ、例を挙げるなら、Lightning がある。Acquia が開発・メンテナンスしているディストリビューションだ。Open Social が特定の利用ケースを対象にしているのに対し、Lightning は、より高度なレイアウト、メディア、ワークフロー、プレビューの機能を求める、すべての Drupal 8 プロジェクトにフレームワークあるいはスタート ポイントを与えてくれる。

僕はもう 10 年以上、Drupal ディストリビューションは Drupal にとって最大の好機のひとつだと信じている。2006 年に書いたように、ディストリビューションを利用すると、独自の視点・視野を備えたダウンロード可能な既製パッケージを作ることができる。それによって、Drupal は新しい市場だけでなく、さまざまな市場に到達することが可能になるのだ。

この好機をつかむため、僕たちはまず、ディストリビューションを作ってメンテナンスのコスト(時間と労力)を減らし、そのうえで、ディストリビューションを商業的な意味でより興味深いものにする必要がある。

ディストリビューションを作りやすくする

僕たちはこれまで 12 年以上にわたって Drupal ディストリビューションの下層にあるテクノロジーを進化させ、ディストリビューションの作成とメンテナンスをいっそう容易にしてきた。ディストリビューション機能に取り組み始めたのは 2004 年だ。ハワード ディーン(Howard Dean)の大統領選挙キャンペーンをサポートするため、CivicSpace Drupal 4.6 ディストリビューションが作られた。それ以来、Drupal のメジャー リリースはどれも Drupal のディストリビューション作成性能を向上させてきた。

ディストリビューションを作るうえで Drupal 5 のリリースは画期的な節目となった。僕たちは Web ベースのインストーラーと「installation profile」のサポート機能を採り入れた。これは Drupal ディストリビューションを作るための土台となるテクノロジーだった。Drupal 6 のリリース期間中、僕たちはインストレーション プロファイルの改良を続けた。その改良があったからこそ、Open Atrium(イントラネット)、OpenPublish(オンライン出版社向け)、Ubercart(商取引)、Pressflow(パフォーマンスおよび拡張性を強化)などの優れた Drupal ディストリビューションが爆発的に普及することになった。

Drupal 7 がリリースされたころ、僕たちは Drupal.org にディストリビューションのサポートを加えた。これによって、ディストリビューションを作り、Drupal.org 上に直接、置き、共同作業をすることが可能になった。Drupal 7 は新たに素晴らしいディストリビューションの着想を次々と生み出した:Commerce Kickstart(商取引)、Panopoly(サイト全般)、Opigno LMS(学習マネージメント サービス)などなどだ。今日、Drupal.org には 1,000 を超えるディストリビューションが登録されている。

いちばん近いところでいえば、僕たちは Drupal 8 でまた大きな飛躍を遂げた。ディストリビューションの作成と保守がぐっとやりやすくなる変更が少なくとも 3 つある:

  1. Composer のサポートにより、Drupal 8 ではモジュール、テーマ、ライブラリーの依存性マネージメントが著しく改善された。
  2. Drupal 8 には新しい構成管理(コンフィギュレーション マネージメント)システムが備わっていて、設定内容をずっと共有しやすくなっている。
  3. いちばん共通して使用されているモジュールを 1 ダースほど Drupal 8 コアに入れた(Views、WYSIWYG など)。このため、ディストリビューションの保守に必要な、互換性やテストに関わる作業が少なくなっている。アップグレードもより容易になる。

Open Restaurant は新しい改良点を利用した Drupal 8 ディストリビューションの素晴らしい例だ。Open Restaurant にはレストランの Web サイトを作るのに必要なものがすべてそろっている。インストールには Composer を使う。

将来の Drupal バージョンに向けて、さらなる改良がすでに進められている。特にエキサイティングな進展のひとつは、ディストリビューションの「継承」というコンセプト、すなわち、Drupal ディストリビューションを互いの上に作れるようにするというものだ。たとえば、Acquia Lightning は標準のコア プロファイルを「継承」し、Drupal コアにレイアウト、メディア、ワークフローの機能を加える。そして、Open Social は Lightning を継承し、Lightning にソーシャル機能を追加する、といった具合だ。この場合、Open Social はレイアウト、メディア、ワークフローの機能に関する保守作業は Lightning のメンテナーに任せることになる。ディストリビューションのメンテナンスがずっとシンプルになるであろうことは明白だ。

ディストリビューションの作成と保守にかかる手間が減れば減るほど、登場してくるディストリビューションも増えてくるだろう。登場するディストリビューションが増えれば、新しい市場に参入してくるさまざまなターンキー ソリューション(そのまま現場に投入できるシステム)に対する Drupal の競争力も上がる。12 年間にわたって僕たちはディストリビューションを作る土台となるテクノロジーを改良してきたわけだが、これからやってくる年月もそれを続けていくつもりだ。

ディストリビューションを商業的に興味深いものにする

2010 年、Acquia 社がいくつかのディストリビューションを作ったあと、僕はよく、冗談で「ディストリビューションとは『プロフェッショナルなサービス業務においてもっとも高価な見込み客獲得ツール』だ」と言ったものだった。というのも、ディストリビューションはマネタイズ(収益事業化)するのが難しいからだ。幸い、ディストリビューションを商売としてより実用的にするという点で僕たちは進歩した。

Acquia 社では、SaaS モデルを通して単独の Drupal ディストリビューションをマネタイズする方法について、Drupal Gardens のプロダクトから多くを学んだ。Drupal Gardens を取りやめはしたが、Drupal Gardens の運営から学んだことを Acquia Cloud Site Factory へと転換した。Acquia Cloud Site Factory では、単独のディストリビューション(すなわち Drupal Gardens)のホスティングではなく、Drupal ディストリビューションをいくつでもホスティングできるようになった。

Nasdaq の提供するものが興味深いのは、まさにこのためだ。この仕組みがあるから組織(企業)は「ディストリビューション as-a-service」というモデルを活用できる、というパワフルな例になっている。Nasdaq はカスタムの Drupal ディストリビューションを作り、それを自らの顧客に「as-a-service」として提供する。Nasdaq が自分たちの Drupal ディストリビューションで収益を上げれば、そのディストリビューションと Drupal に対して今後も長い年月にわたって投資し続けることができる。

言い換えれば、ディストリビューションは、高価なリード ジェネレーション(見込み客獲得)ツールから、ひとつのサービスとして大規模に提供できるものへと進化したことになる。ホスティングされたサービス モデルの方が説得力があることは 2006 年からわかっていたのだが、当時はあいにく、そのためのテクノロジーがなかった。今日では大規模な構成の Web サイトを展開・管理しやすくしてくれるツールがいくつもある。それには、24 時間無休のヘルプ デスク、SLA(サービス品質保証)ベースのサポート、ホスティング、アップグレード、テーミング(テーマ作成)サービス、市場開拓戦略の提供も含まれる。こうしたすべての改良があって、ディストリビューションの作成は商売として実用化できている。